• 2026年9月30日

眼内レンズって、どんな種類があるの?

院長コラム

眼内レンズって、どんな種類があるの?

〜白内障手術で選べるレンズの分類を、最新の情報までやさしく整理します〜

「白内障の手術で入れるレンズには、いろいろな種類があると聞いたけれど、違いがよく分からない」——外来でいちばん多くいただくご質問のひとつです。眼内レンズはここ数年で本当に選択肢が増え、カタログを見ると名前がずらりと並んでいて、まさに「選べる時代」になりました。このコラムでは、専門用語をできるだけかみくだいて、眼内レンズの分類と特徴を一枚の地図のように整理してお伝えします。最後まで読んでいただければ、診察室でのご相談がぐっと分かりやすくなるはずです。

大野眼科クリニック院長2026年9月18日読了の目安:約9分

先に結論から

  1. 眼内レンズは、まず「白内障の目に入れるレンズ」と「レンズを残したまま入れるレンズ(ICL)」に分かれます。まったく別のものです。
  2. 白内障手術のレンズは、「ピントがどこに合うか」で分類するのがいちばん分かりやすい。単焦点/焦点深度拡張型(EDOF)/2焦点・3焦点・5焦点/連続焦点型、という並びです。
  3. 最近はEDOF(=遠くから手前50cmくらいまで、自然に・きれいに見えるタイプ)が主流になり、2026年には回折構造を使わない新しいEDOFレンズも登場しています。
  4. どのレンズが「一番良い」ということはありません。見え方の長所と短所が裏表なので、生活スタイルに合わせて選ぶのが正解です。

基礎

そもそも「眼内レンズ」とは何でしょう

眼内レンズは英語でIntraocular Lens、略してIOLと呼ばれます。白内障の手術では、濁ってしまった水晶体(目のレンズ)を超音波で細かく砕いて取り除き、その水晶体があった場所(水晶体嚢という袋)に人工のレンズを入れて、ピントを合わせ直します。

ここでひとつ、混同されやすいポイントを整理しておきます。世の中には「目のレンズを残したまま、もう一枚レンズを足す」手術もあります。ICL(有水晶体〈ゆうすいしょうたい〉眼内レンズ)がそれで、主に近視を減らす目的で使われ、ご自身の水晶体はそのまま残します。一方、白内障手術は水晶体そのものを取り除いてレンズに置き換える手術です。「入れ替える矯正」と「足す矯正」——目的も方法も別物なので、同じ「眼内レンズ」という言葉でも分けて考えるのが安心です。

ひとことで言うと:白内障手術で入れるレンズ(無水晶体眼用眼内レンズ)は「入れ替え」、ICLなどの有水晶体眼内レンズは「追加」。このコラムでは、白内障手術で使うレンズを中心にお話しします。

分類の地図

眼内レンズは、4つの軸で整理すると分かりやすい

眼内レンズの名前は、メーカーごとの商品名(ピュアシー、ビビティ、パンオプティクス……)が先に目に入るので、とても複雑に見えます。ですが、捉え方はシンプルです。次の4つの軸で考えると、頭の中が整理できます。

軸分かれ方患者さまにとっての意味
①ピントの合わせ方単焦点/多焦点(2焦点・3焦点・5焦点)/焦点深度拡張型(EDOF)「遠くだけ」「遠くも近くも」など、見え方の性格を決める最大の軸
②乱視の補正トーリック/非トーリック角膜の乱視が強い方はトーリックを選ぶことで、裸眼の見え方が向上
③レンズのつくり回折型/屈折型/スパイラル型(螺旋光学型)光をどう配分するかの設計の違い。ハロー・グレアの出やすさに関係
④制度上の区分保険適用(単焦点)/選定療養(承認レンズ)/自由診療(未承認レンズ)費用負担の考え方が変わる。手術自体は保険が使える場合が多い

まずはこのうちの①「ピントの合わせ方」から見ていきましょう。ここが一番、見え方の違いを生みます。

図で理解

「どこにピントが合うか」を並べて比べてみる

下の図は、レンズの種類ごとに「ピントが合いやすい距離の範囲」を横棒で表したものです。左が手元(30cm前後)、右が遠く(5m以上)になります。

実際の見え方は、眼の状態・度数設計・手術の仕上がりによって変わります。あくまで「性格の違い」をつかむための模式図としてご覧ください。

種類別

それぞれの特徴を、やさしく解説します

種類ピントの合う距離構造得意なこと気をつけたいこと
単焦点遠方(または近方)の1点非球面など見え方の質が高い。費用を抑えやすい近くは老眼鏡が必要
焦点深度拡張型(EDOF)遠方〜手前50cm程度まで連続的非回折型/回折型EDOF自然な見え方。コントラストや夜間の見え方を保ちやすい手元の細かい文字は老眼鏡が必要なことも
2焦点遠方+近方(40cm前後)回折型遠くと手元がはっきり見えやすい中間距離(パソコン等)が弱くなりやすい
3焦点遠方+中間(60〜70cm)+近方回折型遠くから手元まで、眼鏡なしを狙いやすいハロー・グレアやコントラスト低下が起こりうる
5焦点遠方〜133cm・80cm・60cm・40cmの5点回折型幅広い距離に対応し、異常光視症を抑える設計現時点では多くの場合自由診療(費用が高め)
連続焦点型(2焦点+EDOF)遠方〜近方までなだらかに連続回折型+EDOF距離による落ち込みが少なく、自然な見え方レンズごとの性格差が大きく、選択は慎重に
トーリック上の各タイプに追加できる仕様—乱視の強い方の裸眼視力を改善乱視の度合いや眼の状態により対応が限られる

表中の距離はカタログ上の設計値を、特徴は各社資料・学術報告・当院での使用経験をもとに整理した目安です。実際の見え方には個人差があります。

単焦点レンズ──いちばん素直で、見え方の質が高い標準タイプ

1つの距離にピントを合わせる、最も基本的なタイプです。遠くに合わせて、近くは老眼鏡で補うのが一般的。「目薬や本を読むときだけ眼鏡をかける」という生活になります。派手さはありませんが、見え方の質(くっきり感)と費用の面で優れ、今日でも多くの方に選ばれています。

焦点深度拡張型(EDOF)──いま、いちばん選ばれている自然なタイプ

「焦点深度を広げる」と書いてEDOF(Extended Depth of Focus)。複数のピントを作るのではなく、ピントの合う幅をなだらかに広げるという発想のレンズです。カタログ上は「遠方から手前50cmくらいまで」よく見えるように設計されていることが多く、コントラスト感度の低下やハロー・グレアといった不快な症状がほとんどないのが最大の特徴です。

副作用が少ない代わりに、老眼の補正効果は回折型よりやや弱めです。手元30〜40cmの細かい文字をじっくり読みたいときには、弱い老眼鏡が必要になることがあります。「遠くから身の回りまでは裸眼で自然に、細かい文字のときだけ眼鏡でも良い」——このニーズにぴったりのタイプで、当院でも近年はこの種類を希望される方が最も多くなっています。

2焦点・3焦点・5焦点──眼鏡なしをどこまで狙うか

光の回折というしくみを使って、光を複数の距離に配分するタイプです。2焦点は遠くと手元の2点。中間距離(パソコン画面など)が弱くなりやすいのが弱点でした。この弱点を補うために中間を足したのが3焦点で、近年の中心的選択肢です。さらに5焦点では、遠方・遠近の中間・近方まで細かく配分し、異常光視症も抑える設計になっています。

手元も遠くも視力が出やすい一方で、光を分け合うためのトレードオフとして、コントラスト感度の低下や、夜間に光のまわりが輪状ににじむハロー、まぶしく広がるグレア、光が線状に伸びるスターバーストといった症状が出ることがあります。網膜の病気や緑内障などがある眼では使いにくい場合もあるため、術前の検査がとても大切です。

連続焦点型・スパイラル型──「切れ目」を減らす新しい設計

2焦点の「近くが良く見える」性格と、EDOFの「遠くから中間まで自然」という性格を掛け合わせたのが連続焦点型(2焦点+EDOF)です。距離による視力の落ち込みが少ないのが持ち味です。また、レンズ面に螺旋状の設計を持つスパイラル型という選択肢も登場し、遠方から近方までをなだらかにカバーしながら、グレアやハローの軽減を目指しています。

トーリック──乱視のある方のための仕様

乱視を補正する円柱度数を持たせたレンズです。上のタイプの多くにトーリック仕様が用意されています。乱視が強い方は、非トーリックだと裸眼の見え方がぼやけやすいため、検討する価値があります。

つくりの話

回折型・屈折型・スパイラル型の違い

「回折型」「屈折型」という言葉もよく出てきます。これは光をどう配分するかという設計の違いです。

  • 回折型:より細かい同心円状の階段(段差)構造で光を配分します。瞳孔の大きさに影響されにくく、近くも遠くも見えやすいのが長所。現在の多焦点レンズの主流です。
  • 屈折型:レンズの中に同心円状に役割の違う領域を並べます。十分な瞳孔径が必要で、夜間のハロー・グレアを自覚しやすいという面がありました。
  • スパイラル型:螺旋状の設計で、遠方〜中間〜近方をなだらかに連続カバーし、異常光視症の軽減を目指した新しいタイプです。

ここが落とし穴

「回折型=古い」「EDOF=新しいから良い」ではありません。新しい設計のレンズが、必ずしもその方にとって最良とは限らない——これが臨床の実感です。たとえば回折型は手元の見え方に優れ、EDOFは見え方の質や夜間の快適さに優れます。どちらを「良し」とするかは、生活のどこを優先するかで変わります。

最新動向

2026年に知っておきたいトピック

1.回折構造を使わない新しいEDOFレンズが登場

2026年3月、TECNIS PureSee(テクニス・ピュアシー)が米国FDAの承認を取得しました(モデルZEN00V、2026年3月12日承認)。レンズ後面の曲率を連続的に変化させ、前面の非球面で角膜の球面収差を打ち消す——つまり回折構造を一切使わない設計のEDOFレンズです。光を分け合わないぶん、コントラスト感度の低下に関する警告をラベルに持たない初めてのEDOFレンズとして承認された点が注目されています。乱視用のトーリックタイプも用意されています。

日本でもこのレンズは選定療養の対象として使えるようになっており、当院でも2026年2月時点で最も多く使用しているレンズのひとつです。実臨床では、度数の選び方を工夫してやや近く寄りに設計することで、遠くの見え方を犠牲にせずに手元の視力も確保できることが多く、術後の評判も良好です。ただし、あくまで焦点深度拡張型ですので、「本当に細かい手元は老眼鏡で」という心構えは必要です。

2.選べるレンズが増え、「組み合わせ方」もテーマになってきた

左右の眼で性格の違うレンズを組み合わせるミックスアンドマッチ(優位眼に遠方重視、非優位眼に近方重視を入れる方法)も、選択肢のひとつです。うまく合えば遠方から手元まで幅広くカバーできますが、両眼のバランスに脳が慣れにくい方もおられ、レンズ交換(再手術)が必要になる場合もあります。特に「マイクロモノビジョン」という言葉だけが独り歩きしているネット情報には、リスクが十分説明されていないものも見かけます。必ず、術後に再手術まで対応できる体制のある医師とご相談ください。

3.「どのレンズを選ぶか」以上に、「どう合わせるか」が大切に

多焦点・EDOFレンズの性能は、度数設計と、手術の精度に大きく左右されます。レンズがわずかに偏心して固定されるだけでも性能が落ちることが報告されています。同じレンズでも、術前の計算をどれだけ丁寧に行い、どれだけ丁寧に手術をするかで結果が変わる——ここが近年の臨床で最も重視されるようになってきたポイントです。

費用と制度

保険・選定療養・自由診療の違い

レンズ選びと同じくらい大事なのが、制度の理解です。大きく3つに分かれます。

区分対象の例手術費用レンズ代
保険診療単焦点レンズ健康保険が適用健康保険が適用
選定療養厚生労働省が承認した多焦点・EDOFレンズ健康保険が適用レンズの差額のみ自己負担
自由診療未承認のレンズ(一部の5焦点・屈折型EDOFなど)自己負担自己負担

選定療養は2020年4月の診療報酬改定で多焦点眼内レンズが対象となりました。費用の金額はクリニックごとに異なります。

目安として、保険診療の単焦点レンズで日帰り白内障手術を受けた場合、3割負担で片眼4万5千円前後という報告があります。一方、多焦点・EDOFレンズは選定療養で片眼35万円前後から、未承認レンズを使う自由診療では80万円を超える例もあります。金額はレンズの優劣ではなく、「制度上の承認状況」と「手術全体の設計」で決まることを知っておいてください。

選び方

結局、自分にはどれが合うのか

「どれが一番良いか」ではなく、「自分の生活にどれが合うか」で考えます。目安をまとめます。

  • 夜間の運転が多い/見え方の質を何より大切にしたい:単焦点、またはEDOFが候補に。ハロー・グレアを避けやすい選択です。
  • パソコンや家事など、遠くから手前まで裸眼で快適に:EDOF、または連続焦点型。
  • 細かい手元もなるべく眼鏡なしでしたい:3焦点・5焦点などの回折型を検討。副作用とのバランスをよく相談しましょう。
  • 乱視が強い:トーリック仕様のレンズを検討。
  • 網膜や緑内障などの病気がある:回折型が使いにくい場合があります。まず眼の状態を優先した提案を受けましょう。
  • 費用をできるだけ抑えたい:保険適用の単焦点が基本。見え方の希望と費用のバランスを一緒に整理します。

注意点

知っておいていただきたいこと

術前に必ずお伝えしている3つのこと

①ハロー・グレア:回折型のレンズでは、夜に光のまわりがにじんだり、まぶしく広がって見えたりすることがあります。多くは時間とともに慣れていきますが、感じ方には個人差があります。

②「慣れ」の期間:見え方の幅を広げるレンズほど、脳が新しい見え方に慣れるまで数週間〜数カ月かかることがあります。手術がうまくいっていないという意味ではありません。

③入れ替えにはリスク:合わない場合にレンズを交換する再手術は可能ですが、決して簡単ではありません。だからこそ術前の相談が最も重要です。

また、多焦点レンズは誰にでも同じように向いているわけではありません。見え方の変化に敏感な方、乾き目が強い方、角膜に問題がある方などは、単焦点のほうが結果として満足度が高いことがあります。レンズに「良い・悪い」の絶対的な優劣はなく、その方の生活と価値観に合っているかどうかが本質です。

Q&A

よくあるご質問

Q. 多焦点レンズを入れると、本当に眼鏡が要らなくなりますか?

A. 「眼鏡を使う場面を大きく減らせる」ことは確かですが、「完全にゼロ」を保証できるレンズはありません。特にEDOFは手元の細かい文字で老眼鏡が必要になることが多く、回折型でも暗い場所や小さい文字では補助が必要な場合があります。「どこまで眼鏡を減らしたいか」を具体的にお聞かせいただくのが、良い選び方の第一歩です。

Q. 遠近両用のコンタクトレンズが合いませんでした。多焦点レンズは大丈夫でしょうか?

A. コンタクトが合わなかった理由はさまざまなので、一概には言えませんが、手術用の多焦点レンズで問題なく慣れていかれる方も多くおられます。どのような見え方が苦手だったか(にじみ、まぶしさ、疲れやすさなど)を術前に詳しくお伝えください。レンズ選びの大切な手がかりになります。

Q. 片眼だけ手術をして、様子を見ることはできますか?

A. 両眼のバランスを見ながら進める方法は実際にあります。ただし見え方は両眼で使うものなので、術後の調整を見据えた計画が必要です。担当医と十分に相談してください。

おわりに院長からひとこと

眼内レンズは、この数年で驚くほど選択肢が増えました。そして、選択肢が増えたということは、「どのレンズが良いか」ではなく「あなたにとって何が大切か」を伺う必要が増えたということでもあります。

当院では、カタログのスペックだけでレンズをおすすめすることはありません。読書や車の運転、仕事の内容、夜のお出かけの頻度、そして「眼鏡をどこまで減らしたいか」——そうした生活のリアルな場面を伺ったうえで、眼の状態と合わせて、一緒に選んでいきます。分からない言葉があれば、遠慮なくその場で聞いてください。きちんとお伝えすることが、手術後の満足につながると考えています。

大野眼科クリニック院長

参考

この記事を書く際に参照した情報

  • 新小岩眼科「おすすめの多焦点眼内レンズ2026年の最新情報」(焦点深度拡張型と回折型の特徴、各レンズの解説)
https://shinkoiwaganka.com/blog/…
  • 共同白内障クリニック「多焦点眼内レンズ比較表(価格・特徴・見え方)」(2焦点・EDOF・連続焦点型・3焦点・5焦点、屈折型/回折型/スパイラル型の定義)
  • Ophthalmology Times「TECNIS PureSee IOL launches in US following FDA approval for cataract surgery」(2026年3月12日承認、非回折型EDOF、ラベル上のコントラスト感度警告がない初のEDOF)
https://www.ophthalmologytimes.com/view/…
  • おうち眼科「多焦点レンズ選定療養とは?」(2020年4月開始の制度、費用目安)
https://www.ouchi-eye.com/column/multifocal-lens-sentei-ryoyou
  • 日本眼科学会「多焦点眼内レンズに係る選定療養の運用について」
https://www.nichigan.or.jp/member/news/detail.html
  • 土屋眼科クリニック「白内障手術の費用はいくらかかる?【2026年8月最新版】」(保険診療の費用目安)
https://tsuchiyagankaclinic.jp/column/…
  • 日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)「ICL基礎知識」(有水晶体眼内レンズの位置づけ)

http://jscrs-icl.org/contents/icl_basic.html

 ※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。実際のレンズ選択は、眼の状態・生活スタイル・費用をご相談のうえ、担当医と一緒に決定します。※記載のレンズ名は各社の製品名です。使用できるレンズは医療機関により異なります。金額は2026年9月時点の一般的な目安です。

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